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「それじゃあ、永山…さんは、もう結婚してるんだな」
姓が変わるとはそういうことだろう。私が何気なく呟くと、二人はきょとんと同じような顔で私を見た。
「もうお子さんも?」
「いや、……まー、普通そういうふうに思うよね」
重ねて問いかけた私に、永山は独り言のようにそう呟く。それがなんとなく沈んだ声で、聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうかと少し気まずく思った。
それを見越したのか、久喜が控えめに口を開いた。
「小島さんが小島なのはさ、結婚じゃな――――」
「こんばんはー。サインいいかな?」
その台詞を遮るように、数人の女子グループが話しかけてきた。いきなり口を挟まれたことに眉を潜めたが、サインとはなんのことだと三人不思議に思う。
そこではっとする久喜。
「………忘れた。俺、受付してたんだ」
「お前な……………」
時計を確認すれば、もう開始まで30分を切った。続々と他の旧友も集まってくるだろう。
「あ…それじゃ、私は先に入ってよっかな」
「榊には受付の手伝いをお願いしたいな」
「…………まあ、いいんだが」
こうして私は不本意ながら久喜の手伝いをすることになった。後から後からくるクラスメイトに、「榊の友人ですか?」と問われ続け、久喜には笑われ続けながら。
―――――同窓会まで、あと30分。
カウントダウンはすでにはじまっていた。
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