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「あれ、橘課長、今日は定時退社ですか?」
帰宅の準備を始める私を見て、部下の一人が不思議そうに声をかけてきた。無理もない、常日頃残業を繰り返す仕事人間の私が、まだ五時にも満たない時間から帰ろうとしているのだから。
私はまだチェックをしていない書類を鞄につめこみながら、「ああ」と気のない返事を返す。
「ちょっと野暮用でな」
「合コンとか?」
「馬鹿、同窓会だ」
したり顔で笑う部下の頭を書類で叩いてやった。
「計算間違えてるぞ。やり直し」
「うわー……、すみません」
「今日中に頼む。それじゃあ、私は先に失礼するよ」
「はい。お疲れさまでした」
立ち上がり、コートを羽織る。暦はもうすぐ春だが、まだまだ上着は手放せない気候だ。
(早く暖かくなってほしいものだな)
そんなことを思いながら、私は会社を後にした。
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