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「お、橘。やっとご到着か」
同窓会場の広間に向かうと、その扉の前で受付をしていた一人の男が、私を見て相好をくずした。ストライプ柄の落ち着いたスーツを着た彼、山元久喜(ひさき)が、私の友人である。
「まだ開場一時間も前だろうが………。むしろ、早く来たと誉めてほしいぐらいだ」
「そういうなって。久々の再開を少しでも早く味わいたいっていう、親友の願いだろう?」
「そんなくさい台詞は、もっと年をとってからいうんだな」
私が冷たく吐き捨てながら名簿に記帳していると、久喜はやれやれと、やけに優雅に肩をすくめた。高級ホテルのホテルマンをしているだけはある整った仕草だが、けれどこんなところで発揮されても意味がない。使い終わった筆を押し付け、
「今日はどのくらい参加する予定なんだ?」
と興味なく尋ねた。
久喜はスクエアの眼鏡を押し上げながら、そうだな、と考えるように相槌をうつ。
「まあ、予定では30人くらい。大体のクラスメンバーが来れる予定。もちろん、塩谷先生も来られるよ」
「塩谷先生か……懐かしいな。今年で30だから……18年ぶりか?」
18年といえば、人生の半分以上会っていないことになる。確か、怖くて厳しい先生だったが、人情味があり、子供ながらに尊敬していた覚えがある。一人再会を懐かしんでいたら、久喜は呆れたようにため息をついた。
「それは橘がこういう集まりに来ないからだろう」
「………まあ、そうなんだが」
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