悲しい残り香

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「かよちゃん、カラオケする?」 目の前に座るヘルプが言った。 あたしが通い始めてからバイトで働いている、喋りが上手くて仕事が出来る子。 あたしはリュウの居る卓を横目でチラ見した。 ぽっちゃりした女の子がリュウの肩にしなだれかかっていた。 胸が痛くて、涙が出そう。 「いいよ、カラオケしよう。」 カラオケするのは会話に詰まるようなヘルプが着いた時だけなんだけど、今はリュウ以外の誰とも話したくない。 リュウの事を想いながら、ジャンヌの歌でも歌おう。 切なくて悲しいラブソング。 バックからハンカチを取り出して、鼻に当てて思いっきり吸った。 ハンカチに少しだけ振り掛けたブルージーンズの香りに、煙草の匂いが混じっていた。 リュウの匂い。 この卓には居ない、リュウの匂い。 あたしはこの完璧じゃない、何か不純物が混じっちゃった様な不完全な匂いが、世界で一番好き。
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