悲しい残り香

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「あの時かよは指名被ってたよなー。せっかく場内したのに、あまり話せなくて残念だったよ。」 私は思わず笑ってしまった。 「いやいやいや。今はこうして沢山話せてるから良いじゃない!それにあの日ワンタイで帰ったくせに!」 「いや、かよは人を惹きつけるとこがあるよ。話してて落ち着くし、居心地良いんだ。実際、かよのお客さんって延長する人多いでしょ?」 「まあ、そうだけどー…」 リュウがまっすぐな目であたしを見て褒めるから、思わず目を反らしてビールの入ったグラスに手を掛けた。 照れる。 リュウの言葉が嘘でも嬉しくて、胸がギュウって痛くなる。 私はいつだって自分に暗示を掛ける。 「これは色恋だ」って。 そうしないと、いつかリュウがくれた言葉や行動がすべて嘘だって気付いた時にあまり傷つかずに済むから。
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