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調子が狂う女の子。
調子が狂う女の子。
君を見てると調子がクルウ‐。
白い生地に鮮やかなスイフヨウのワンピース。
素足にサンダル。緩く巻かれた髪にトンボメガネ。
舐めるように視姦し、君を舐め取る。
君はどうしてそんなにも人前で無防備なのか。
「ヒロシさんて不思議な人よね」
眼光紙背に徹して君を見詰める。
計算を弾く緻密な機械音が自分の頭から聴こえてきそうだった。日々幻覚妄想を見て生きる廃人と化した精神病患者みたいだった。
「ヒロシさんは不思議な人ね」
赤みを帯びた唇が開く‐。
俺の何が不思議だというのか。君は人間が怖くないのか。それともその年でまだ人間の恐ろしさを知らないのか。
喉元までせりあがる数々の疑問詞を飲み込み、黙って微笑んでやった。
「ヒロシさんは余計なことは一切いわない人だものね。そこが素敵だわ」
苦虫をかみつぶしたような居心地の悪さに苛つく。
何もかも見透かしたような態度に吐き気を覚えた。稚拙で未熟で無垢な君に俺の何がわかる。達観しようがまだ子娘じゃないか。
「ヒロシさん、ヒロシさん」
鮮血の唇で君が名を呼ぶ。
その度に不愉快で刺々しい気分になる。
それなのになぜ自分はこの娘と過ごし続けるのだろう。
自分でもわからない感情に戸惑いを感じる。
感情など計算の前では必要がないものだ。削ぎ落とす無用のもので余計なもの。計算がすべてだ。傷つけられて無痛覚になってからは一層の過去。
置き去りにしたはずの人間のアナログ部位に目覚め、俺はぽっかりと拡がる空洞の闇に飲み込まれたような気がした。
この娘の持つイノセント(無垢)な空気に浄化され、汚染され、自身もイノセント(馬鹿)になったというのか。
「君はどうして―」
でかかった言葉を飲み込んだ。
刺した視線で今にも君を殺してしまいそうだった。太股あらわな柔肉。
もうこれ以上感情を抑えるのは限界だった。
「ヒロシさん-」
黙れ。黙れ。黙れ。
唇を塞いでやった。
小娘は頬を赤らめ、目を閉じた。怒りの炎で目の前が真っ赤になった。
のぼせあがるな、イノセント(馬鹿)。
この娘が俺の感情を揺り戻したからなんだというのか。
取り乱す必要もない。
目の前の娘は脅かす存在でもない。
ただの笑う人形だ。
口紅でべとついた口から歯を覗かせる間抜けな人形だ。後、数年で萎んで使い物にならなくなる人形だ。
それなのになぜ一緒に過ごす必要があるのか。
いくら考えても答えは弾きだせなかった。
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