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「浦正先輩」
梯子を上り切った俺は、見張り台で眠そうに座っていた愛しい人の名前を、呼んだ。
「おー、こーきー。なんだ、眠れないのか?」
その人は、いつも愛想笑いをする俺とは正反対に、ただ純粋に、笑った。
何度ここに来ようと思っただろう。
チャンスが来るたび禁忌を犯そうと思っただろう。
でも俺にも義理があって、理性があって、プライドがあって、
そして何より冷静さがあった。
でも、あなたが笑うその姿に何度打ちのめされたか。
ギリギリと痛みが増幅していくのを隠して何度嘘の笑顔を作ったか。
「…?どうした?なんか嫌な事でもあったのか?」
名前を呼んでから、何も言葉を発しない俺を見て浦正先輩は言った。
彼は俺のすぐそばまで近づいて顔を見上げ、微笑む。
「そんなところにいないで、こっちにこいよー」
暗闇に映える白い腕が、俺を誘っている。
俺は誘われるまま、見張り台へと足を進めた。
「今日はちょっと、肌ざみぃーなぁ」
ぶるっ、と震える仕草をして、先輩は俺を引き寄せてきた。
急に近くになった距離に驚き、動悸が激しくなる。
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