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「…」
浦正先輩は顔を少し赤くして、ただ規則的に波を立てる海を見る。
目が暗闇に慣れてきたせいか、月の光が反射してキラキラ光っているのがよく見えた。
「…いっぱい、ありすぎて…」
今までの体験を思い出して幸せに浸ってるような顔だった。
心の底からそう思っているのが嫌という程わかってしまう。
この暗闇の中でその表情だけはっきりと浮かび上がり、頭に強烈に焼きついていった。
フィルムの奥の奥の層へ、ジリジリと消すことの出来ないほど、深く。
「あぁー、もう!この話は終わり!」
そう言って俺の肩をバシンと叩く先輩の顔は、笑っていた。
いつもあの人に向ける顔だった。
俺の感情を、どうしようもないくらいにズタズタに引き裂く笑顔。
ああ、そうだ俺…
この顔を歪ませたかったんだ。
「ちょ、ちょっとこーき!うわっ…!」
俺は先輩に覆いかぶさり、両腕の動きを封じた。
先輩は俺がただの悪ふざけでやってる事だと思っていて、本気で抵抗する様子はない。
俺は先輩の腕を、痕がつくくらいきつく握り締めた。
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