宝石

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「やっべ、間違えたかも」 廊下を歩いていると、部長の部屋から小さく声がした。 明らかに不穏な言葉を発している声の主は狂平らしく、 「あーあの本あったっけなぁ」と言いながらガタガタと何かを探している。 なんだか遠くで部長のうめき声みたいなのが聞こえたのだが気のせいだろうか? 狂平は、「ごめんなー部長!本取ってくるからちょっと待ってて」と言ってドアに近づいてきた。 その小さな彼はドアを開くと、ひょこっと頭を出し、俺に気づくとすぐさま服の裾をつかんできた。 「あっ、蓮くん!ちょうどよかった!ちょっと部長の面倒見てくれない?すぐ戻るから!」 早口でまくしたてた狂平は、じゃっそういう事で!と言って急いで自分の部屋に戻っていく。 「…?なんや…?」 何が起こっているのかよくわからないが、 とりあえず頼まれたのだし一応部屋に入ってみる事にした。 どんな事があったのか、ちょっと気になるし。 「…はじめて入るな…」 足を踏み入れると、そこは部長の空間、いや脳内そのものがあった。 壁に貼ってあるポスターや家具のチョイス、小物の配置、整然で清潔で…、 それに何より部長の匂いがふんわりと俺を包んでくる。
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