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瀬戸義弘は無口な男だ。
口下手なので職場に馴染めない、というヤツだ。
だから、この日も彼は話さない。
自分が口を開けば、場違い、見当違い、空気を読まない発言ばかりで周りを凍りつかせてしまう。
だから、話さない。
どうせ、馴染めないのだから。
--あぁ、マンドクセ。
などと思いながら、彼は無言でパソコンに向かっている。
その時、彼の背中に声がかかった。
「すみません瀬戸さん、よろしいですか?」
「なんですか…?」
声をかけたのは、入社したての新人OL、あまり可愛くないが愛想はいい。
OLはOLで瀬戸に対して--からみにくっ!--という印象であった。
先輩社員は、揃って「絡み難い人」としか教えてくれなかった、偉大な教えのとおり、声もかけづらい。
むしろ、話しかけるなオーラ全開である。
フレームレスのメガネが鉄面皮度に拍車をかけ、話し掛けても大して会話が続かず「あぁ」、「はい」、「そうですね」といった単語しか話せないのではないかと疑いたくなるぐらい話さない。
なので、彼女は二日後の飲み会会費を払ってほしいと用件を伝え、会費のみ回収して瀬戸から離れた。
「ありがとうございました」
「あぁ、いいよ、お疲れさん」
やっぱり続かない。
--この人、なんなんだろ?
瀬戸の近くを離れると、先輩OLが話しかけてきた。
「からみにくかったでしょ?」
「何かややこしかったでしょ?」
と、ひそひそ言ってくる。
「そうですね、ちょっと変わった人ですよね」
新人は愛想笑いを浮かべながら返した。
一応は先輩なので、あまりひどいことは言えない。
新人OLとして他の男性社員からはチヤホヤされるのだが、この鉄面皮は無視を決め込み、全く相手にしてくれない。
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