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スーツを脱ぎ捨て、ソファーにもたれ掛かる瀬戸、彼はふと思う。
応接セットなんていらないのではないか、と。
ずっと一人ぼっちで尋ねてくる友人も恋人もいない、一組のソファーとガラスのテーブルなど、自分にはいらない、必要ないのだ。
「そうでもありませんよ」
瀬戸の前にシルクハットにタキシードという紳士的な姿の男が座っていた。
「は?あんた誰だ!?」
突然の来客に瀬戸は、上ずった声をあげてしまった。
「私は案内人、ジャルードとでも言いましょうか」
「はぁ…いつの間に入ってきた、警察を呼ぶぞ!」
吠える瀬戸に「静かにしなさい」と言うように、ジャルードと名乗る紳士は人差し指を口に当てた。
「まぁまぁ、私は案内人、と言ったでしょう?」
ジャルードは余裕たっぷりに、瀬戸を見下したように話す。
それが、瀬戸のカンに障る。
会社であれだけ見下され、挙句に見ず知らずの男にも見下される。
これほど不愉快なことはない。
「あのな、見知らぬオッサンにカンに障る態度とられりゃ俺もキレるぞ」
「そう!…それです」
いきなり大声をだすオッサン…紳士、いやジャルード。
瀬戸の言葉を遮り、続ける。
「キレる、ムカつく、腹が立つ、イライラする……この世界には嫌気がさしませんか?一生懸命に働いても、生きても…誰も認めてくれない、関わらない、気にもしてくれない…こんな世界には…」
思い当たる節だらけの瀬戸は、黙り込む。
自分は、いい加減に嫌気がさしてきた。
何に?
この世界にだ。
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