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オニキスから人の姿に戻った茂は、集まった数十人の人々を一瞥した。
「まだ、催眠が解けないのでしょうか?」
「分からん。だが、これが…この者達の深層意識なのかもしれない」
「深層意識…ですか?」
鹿島はウム、と頷く。
「俺の予想だ…何とも言えん。それより良いのか?出勤できんぞ」
「あ……」
新京都港に朝日が昇りはじめる、新しい一日の始まりを告げるそれは、茂の目に悪魔の炎のように見えた。
瀬戸は、満員電車に揺られていた。
ギュウギュウの押し寿司のような車内には、いい加減にウンザリしてきた。
毎朝毎朝、椅子取りゲームのように座席を奪い合い、降車するにしても人海(女性には触れないように)を押しのけ、会社まで歩いて行く。
--この繰り返しには、いい加減に飽きた。
熱苦しい車内で瀬戸は、急に惨めな気分になってきた。
会社にいっても空気扱い、いてもいなくても…同じなのだ、何も周りは変わらない。
そう思っていたら、不意に電車が揺れ、隣に立つオヤジがバランスを崩して瀬戸にもたれ掛かった。
その時、オヤジの吐息が耳にかかった。
--昨夜と同じ、嫌な温もり。
「あぁ、スミマセン」
「いえ…」
オヤジと言葉を交わしつつ、瀬戸は、昨夜の不思議な出来事を思い出した。
タキシードを着た変な男、あいつは何者だったのだろう。
思案していると会社の最寄駅に到着した。
「住みよい世界……」
タキシードの男、ジャルードは、そう言っていた。
自分にとって住みよい世界とは、何だろう。
求められる、自分が必要とされる世界。
必要とされることによって得られる心地好い仕事、心地好い同僚…ゆくゆくは心地好い家庭も手に入るかもしれない……。
「素晴らしいな、それは…」
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