父と母と浮浪少年

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‡‡‡ 「…」 少年が行き着いた先は、読書だった。 分厚い辞典を傍らに置いて、難しそうな事が書いてある本をひたすら読んでいた。 「…分かるの?」 脇で見ていた少女は怪訝そうな顔で尋ねる。 「…少し」 少年は表情を変えず、顔も向けずに平坦な声で答えた。 無愛想だと思った少女はまた不機嫌になる。 「…」 少女は考える。 どうしたらこの少年は自分に意識を向けてくれるのだろうか? 愛想よく接したものの、対応は素っ気ない。 ならいっそ、自分も素っ気なくすれば相手は自分の気持ちを分かってくれるだろうか。 そう、自分が周りと一定の距離を置くために使っている、堅苦しい言葉などを使えば。 幼い頭で必死に考えた結果、少女は早速実行に移した…が、失敗し、後十数年同じ接し方になることを強いられた。 ‡‡‡ 「なあ」 「…」 暗い夜。まだ本を読み続けている少年に、父は話しかける。 「そろそろ、名前くらい教えてくれてもいいか?」 「…」 少年は考える。 名前くらい無くては不便かもしれない。 しかし、自分の名前は多分明かしてはいけないだろう。 なら、今考えようか。 そうだ。自分は狂ったようにただ何かを恨んでいた。狂気だけを持ってただ生きていた。 旅をして、少しは変わったかもしれないとはいえ、今も心に渦巻く黒い感情は消えることはない。なら…。 「きょうき…」 「きょうき…京輝か?」 字なんて勝手に決めればいい。どうせ偽名だ。
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