父と母と浮浪少年

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「字は分からない。そう呼ばれていただけだから」 少年は不自然さを残さないように答えた。 「そう…か」 父は同情するような眼差しを少年に向けた。 「…ふぁ…」 少年は眠そうに、欠伸を一つ漏らす。 そして、一人で居た時に身に着けていたローブで全身を覆う。 ローブが顔にかかると、微かに残った元々の持ち主の残り香が漂った。 「…」 寂しい気持ちはある。でも、何も恨んではいけない。 自分で決めた道だ。誰のせいでもない。 今の世界を守る大きな物を、自分が壊す。 狂気の沙汰だが、絶対に成し遂げる。そう決めた。 「…っ…」 瞳が潤み、呼吸が荒れる。 でも泣くことは許されない。自分は強くならなくてはいけない。 布一枚隔てた先では、この家の主が不思議そうな目で自分を見ているだろう。 でも気にしちゃダメだ。自分は一人で強くなる。 どんなに辛くても…。
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