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「何が?」
不思議顔のあたしを余所に、陽は困った表情を浮かべて。
「結婚式もウェディングドレスもいらないなんて、本当にそれで良かった?」
「うん。だって引っ越すのにお金いるじゃない?」
特別な物はいらない。
結婚式とかドレスとか、言い出したらキリがない。
「お金の問題じゃなくて、さ……」
「え?何?聞こえないよ~?」
立ち止まったまま、ぶつぶつと呟く陽を残して、遊歩道を先に進む。
結婚式とかドレスよりも、あたしは陽と一緒に居たいだけ。
うん。
だから、別にいらない。
届かない距離で、陽がぽつりと呟いた言葉は、柔らかい風に包まれていった。
「でもやっぱり……俺は美沙にウェディングドレス、着せてあげたかったけどな……」
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