2283人が本棚に入れています
本棚に追加
「……美沙ちゃんっ、忘れ物……っ」
それを遮るようにあたしの前に現れたのは、俊輔で。
彼は手慣れた仕草であたしの髪に長いベールを被せた。
繊細な刺繍の施された、美しく揺れるそのベールの向こう側。
「……っ、俊輔?」
「美沙ちゃん、綺麗だよ」
正面からあたしを覗き込んで、俊輔は目を細める。
「……おめでとう」
陽の居ない間、少なからずあたしを支えてくれた俊輔。
だから“ごめんね”は間違ってる。
「俊輔……ありがとう」
「うん、じゃあ……陽司に飽きたら俺と結婚しような?」
明らかに冗談をと解る口調で、楽しそうに笑って手を振った。
「俊輔と……」
隣でそっと見守ってくれていた陽が小さく囁いた。
「この先、絶対に美沙の事泣かせないって約束したから」
彼のその言葉は力強く、そしてまるで俊輔との約束を噛み締めるように背中を見送りながら。
「必ず。美沙を幸せにするよ」
最初のコメントを投稿しよう!