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それからどれだけ経っただろうか。突然、赤峰君が声を上げた
「川にデケェ鯉がいるぜ!俺、ちょっと捕まえてくる!」
そう言って堤防を下って行く
“僕も行くよ”そう言って彼を追おうとした瞬間、僕は左腕を捕まれた。
もちろん、腕を掴んでいるのは委員長しかありえない。ただ、辺りは既に夕闇に包まれつつあり、表情どころか顔の判別も出来ない
「…さっき言ったの……嘘です…」
「えっ?」
目の前には人の形をした何か黒い塊があるだけだった
「“早く記憶が戻れば良いのに”って心にも無いことを言いました。本当は今のまま、全部忘れたままの方が嬉しいのに」
「言ってる意味が分からないよ。何をいきなり…」
「佐田君が記憶を取り戻したら、私はあの子に負けちゃいます!私はあの子だけには負けたくないんです!」
彼女の表情は分からない。でもきっと彼女は泣いてるんだと思う
「でもいつかきっと佐田君は記憶を取り戻してしまう。そしたらもう、こうは出来ませんから」
僕の左腕を掴んでいた腕が離れ、代わりに彼女の影が近付いてきて、僕の首にその両腕をかける。
「だから、今だけでいいです。今だけ…こうさせてください」
その影が更に近付き、僕の唇に何か湿った柔らかいものが当たった…
どれたけそうしていたのか。しばらくして影が僕から離れた
後に残ったのは、僕の唇に当たった何かの感触と、赤峰君が鯉と奮闘する声だけだった
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