おっちゃん。

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   カーテンの裏から規則的な寝息が聞こえる。俺の寝床はずぶ濡れ女に奪われてしまった。なんだってんだ畜生。こんなことなら大人しく家に帰っておけば、なんて今更後の祭りか。  深く溜息をついてハンドルに足をあげ、座席を倒す。背後にある簡易ベッドから小さな悲鳴。 「…起こしたか?」 「…んーん、平気」 「そうか」 「…何か、悪いね。やっぱ起きたら送ってってよ。どっかその辺の、適当な街辺りにさ」 「うるせえよ。黙って寝ろ」  掠れるような声に、また溜息。泣いてる女放り出せる訳ないだろう。こういうとこが、甘いんだな、俺は。背に溜まる疲労感を伸びに乗せて緩やかに瞼を下ろす。赤黒い視界の中、未だに眠れないのか、千香子は小さく嗚咽をつき始めた。 「しばらくだけだ。そのかわり、俺が仕事中は絶対そっから出るなよ。俺が家に帰る時は自分で寝床をどうにかしろ」 「…、いいの?」 「…いいも何も。乗せちまったのは俺だからな。いいか、3時に起こせよ。3時だからな」 「うん、…わかった」  小さく、蚊のなく様な声で、ありがとうと呟いた千香子に俺はようやく眠る体制に。つーか、ばれたらまずいよなあ。…まあ大丈夫だろ。それこそ、ばれなければ。  千香子の嗚咽と、窓を打ち付ける雨の音を聞きながら、ゆっくりと意識を手放した。  
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