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「…あれ、」
どこだ、ここ。低い天井と小汚いブランケットと、大きな鞄。真横には灰色の短いカーテン。…ああ、そうか。そういえば昨日…。
豪快ないびきと共に目を覚ませばおっちゃんが座席で大きな体を小さくして寝ていた。無駄な肉付きのない力強そうな体。男の人って感じがする。
そういえば、起こしてくれって言ってたっけな。時計を見れば、まだ約束の時間まで1時間はあった。もう一眠りしようにもとんでもないいびきに眠れそうにない。よく寝てたな、私。
雨は未だに止まずに、まるで私を外からこの狭い車内に隔離するように視界を閉ざす。何だか、檻みたいで息が詰まりそうだ。曇り空から終わりなく降り注ぐ雨を見つめながらおっちゃんのいびきを聞いて、何故だかわからないけど少しだけ安堵する。詰まりかけた息がすっと通る。
会ったばかりの人間に何心開いてんだ私、なんて馬鹿らしく思いながらも理解。どんな人だろうと関係なかったんだ。今の私には。誰かいてくれるだけで、いい。
「おっちゃん、起きて」
時間にはまだ少し余裕があったけれど、何となく会話したくなった。ねえおっちゃん、雨、強いね。事故なんかしないでよ。
薄く瞼を持ち上げたおっちゃんの頭に肘をつく。
「…何のつもりだてめえ」
「いやあ?何か、暇でさ」
「まだ時間あんじゃねえか。寝かせろ。寝てねえんだよこちとら」
「話そうよ」
「何で」
「見ず知らずの怪しい女を匿うようなお人よしのおっちゃんの、生態を知りたいからさ」
「いい度胸だ、頭出せ。かち割ってくれる」
誰でもいいから一人にしないで。
私の悲鳴がおっちゃんに聞こえることは絶対にない。元気になったふりをしなくていい。それが解ってるから安心して甘えられるんだよ。
見ず知らずの、お人よしのおっちゃんにしか出来ない、私を守る唯一の術。…なんつって。
不機嫌そうに顔を歪めるおっちゃんにまた私は笑顔を向けた。
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