千香子。

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   おっちゃんの名前は西村遼(ハルカ)と言うらしい。不釣り合いだ。もっと何か、裕次郎とか、たけしとか、男らしい名前の方が似合う気がする。そんなことを漏らせば、言われると思ったが余計なお世話だと頭を殴られた。痛い。手加減なし。(多少はしてるだろうけど)  おっちゃん自身名前がコンプレックスらしく、あまり触れてほしそうにないようだった。まあまた何度かいじったんだけどね。名前について。彼はそういう人柄みたいだ。からかって、からかわれて、明るい人。一口に明るいといっても色んな人がいるけれど、おっちゃんの明るさは何だか周りまで引きずる明るさだった。  友達、多いんだろうな。きっと。 「おら、出るぞ。お前飯は?」 「いらない」 「あほか。食え。死ぬぞ」  そういえばしばらく何も食べちゃいなかったけど食事自体にあまり関心のない私は何日も食べないことが当たり前になっている。それを説明するも おっちゃんは聞いちゃくれない。おもむろにビニール袋を投げつけられた。沢山のおにぎり。 「好きなもん食え」 「ええ、いいよ。限界になったら勝手に買うし」 「今から高速乗るのに何処で買うんだバカ女。いいからそれ食って便所いってこい。仕事中は出れねえから次の便所は夜中だぞ」 「…」  郷に入れば郷に従えって、そんなのアリですか。まあ仕方ないか。小さく溜息をつけばまたおっちゃんの怒鳴り声。 「返事!」 「うへあっ!?」  不意な大声に思わず奇声。これはまずい。明らかにおかしなひとだ。変わり者と思われてもいいけれどおかしなひとはいやだ。この微妙な違い、意外と大切なんだよ、つって。 「っ、なんだそれ。それが返事か」  おっちゃんは、案の定大爆笑。独特な笑い方、何となく、つられて笑ってしまいそうな笑い方。つい私も笑ってしまった。  ゆっくりと発進するトラックの中で意味もなく笑う私をあの人が見たらどう思うだろう。こんなに笑ったのは久しぶりな気がする。  
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