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おっちゃんが雄叫びを上げた。これはよくあることらしいから気にすんな、とのことらしい。先程から鳴りっぱなしのおっちゃんの仕事用携帯は、どうも仕事の話ではないものばかりな気がする。やはり友達は多いようで。
少しは私の相手もしてほしいものだ、なんて一寸、つまらなくも感じたりして、運転席を後ろから蹴る。ああ睨まれた。よそ見運転いくない。いくないよおっちゃん。
どうも先程の雄叫びは雨の影響で起きた交通事故のせいらしい。渋滞に捕まってしまったようで、一寸前からおんぼろトラックの進みが悪い。どうでもいいけど、スプリングがいかれているのか、馬鹿みたいに揺れまくる車内。幸い、私は乗り物酔いに強いからどうってことはないけれど、おっちゃんが小刻みに揺れている後ろ頭がカーテンの隙間から見えていると笑いがどうも収まらない。何だか、可愛いじゃないか。おっちゃんとうさぎ飛びのような振動。ギャップだ、ギャップ。
「何にやついてんだてめえ」
「何で解るの」
「空気で」
カーテンに隠れて笑ったつもりがどうやら聞こえていたらしい。バレバレですか。まあ二人っきりなんだから声なんて丸聞こえなのは当たり前なんだけど。
おっちゃんは軽く溜息をつくと延々と続く車の直線を見てまた叫んだ。相当苛立っている。交通事故での渋滞にここ三日で三度捕まったみたいで。ああ、そりゃあ苛立ちもするねと同調しておいた。しておかないとまずいのは一応解っている。
「へったくそのくせにスピード出しあげるからだっつの。馬鹿じゃねえのまじで」
「口悪いよ、おっちゃん」
「うるせえ。こっちはまともに運転して迷惑被ってんだから文句くらい言わせろ」
…まともに?
荒いのは荒いおっちゃんの運転をまともというのには疑問も浮かぶけれど、まあ、おっちゃんが文句を言いたくなるのは解る。もう1時間もこの状態だからだ。
とりあえず仕方ない。一眠りでもしようか。おっちゃんには今は触れない方がいい。
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