ーはじめにー

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『……ごめん、俺たちもう別れよう。』 さっきから私の頭の中でこの言葉が何度も何度も繰り返される。 そう、私は高校時代から5年間付き合っていた彼氏についさっき振られたんだ。 「……ぐすッ…ぐすッ…。」 久しぶりのデートの最後に突然に別れを告げられた帰り道。 辺りはもう薄暗い夕暮れの刻。 私は出来るだけ人に見られないようにと、人通りの少ない道を歩き、あまり見られないようにといつもより少し早く歩き、帰宅道の途中にある公園でベンチに座って泣いていた。 「……ぐすッ…ぐすッ……何でこうなっちゃったんだろぉ…。」 いつまでも涙が止められない。 「……お~い、そこの泣き虫ちゃん? それ、俺のカバンなんだけどなぁ~?」 「……ぐすッ…ふぇ?」 そんな時に急に男の人に話し掛けられる。 遊び人とまでは言わないけど、何となーく少し遊んでそうな雰囲気の感じの若い男の人。 多分、年下だと思う。 「……聞いてる?」 よくこの状況を見て話し掛けてくるなぁと思う。 もしかして、ナンパか何かかなとも。 こんな恥ずかしい状態の時に話し掛けられたという衝撃で、その男の人が何を言ってるか全然聞いていなかった。 「……うーん…どうすっかなぁ~?」 無視しているのに、いつまでも男の人はどこにも行ってくれない。 「………ぐすッ…ぐすッ……もうッ…何なんですか…?」 「…だ~か~ら~! あのね泣き虫ちゃん? 泣いてるのは別に良いんだけど、ずっと俺のカバン踏んでるんだよね~?」 「………え?」 ようやく状況を理解する。 ベンチだと思っていた私のお尻の下に、クシャっと潰れたカバンが敷かれていた。 「………あ…。」 「…そーゆーことッ!…よいしょっと!! これを返してもらえたし、ちゃんと居なくなるから安心してッ。」 カバンを取って肩に掛けると、男の人は私に背を向けて歩きだした。 「……あのッ! …ごめんなさいッ!!」 「…あー、良いって良いって! 泣いてるとこ邪魔しちゃ悪かったね、泣き虫ちゃん。 ……あっ、そうそう。 泣いてるのは良いけど、こんな所に居ないでちゃんと家に帰ってから泣きな。 世の中、頭おかしい男が多いからさ~。 んじゃな~、泣き虫ちゃん!」 「……あっ……もう何よ、泣き虫ちゃんって…。 ……あれ?」 いつの間にか涙は止まっていた。 これが私と彼の出会いだった。
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