織武朔の劣等感

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妻の心には永遠に兄上が住んでいる。 今でも時々、夜中に一人で泣いていたり、物思いに耽っているのを知っている。 毎日首には兄上が贈った赤い宝石の首飾りが輝いて、タンスの奥には兄上から最後に貰った蓮の柄の着物が大切にしまわれている。 そんな妻に今だに手を出せない自分がいる。 いや、何より今だに亡き兄の面影に捕らわれて抜け出せない、変えられない自分が一番情けなく、悔しい。 俺には兄上のような気迫も、紅葉のような無邪気さもない。 何も持たないのだと思い知り、またあの時と同じだ。 母からの愛を求めていた子どもの頃と。
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