一章 ありがとう。僕の大切な友達。

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 春の新生活シーズンが今年もまた来てしまった。進学、就職のために歩く人の顔もどこか希望に満ちている。  ましてやここが学校の通学路ならば、新入生や新たに進級する人間が多いのは当たり前で新生活への期待みたいな空気が満ちている。  ただ、僕は新しい環境に馴染んでいくのが苦手だ。  社交性がない訳じゃないし、大概のひととはうまく打ち解けていくのだが…。  自己紹介がとんでもなく苦手だ。どのくらい苦手かというと語尾に「にゃん」を付ける人ぐらい苦手だ。  なぜ苦手かというと、 「ではこれから自己紹介をしてもらいます。出席番号順で藍市くんから自己紹介をしてもらおう。」  まず自己紹介の苦手な理由その一  藍市[あいいち]という姓は高い確率で自己紹介一番手になること  第二の理由は、 「藍市奏(あいいちかなで)です。よろしくおねがいします。好きなことは男らしいこと、嫌いなものはウェディングケーキ、好きでも嫌いでもないものは秒針です。」  軽く受けを狙った自己紹介、自分の中では78点・ここまではいつもいいんだけど、 「ちなみに藍市君は男だ。」 『エエエ!男?!』」  教師のよくわからない《ちなみに》により、いつも最後まで自己紹介できないからだ。なぜかいつもこの注釈が入る。  騒然とする教室内、 「なんてこった…。一番このクラスでかわいいと思ってたのに…。」 やら 「お前なんてまだましだ…。俺なんてもうラブレターまで書いちまったぞ…。」 とか 「おれ…男でもいいと思い始めた…。」  なんてざわざわが聞こえてきて苦手になる。
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