一章 ありがとう。僕の大切な友達。

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 僕は女の子によく間違えられる、間違えられるというよりは、間違いなく女の子だと思って話しかけてくる。  それが嫌かというとやはり嫌だ、僕が男だと知らずに告白してくる下級生達に対しては本当に気の毒になる。  僕は髪を切れない事情があるだけで、女装癖があるわけでも、男が好きなわけでもない。普通の男なのだ。  もっとも「髪を短くしたところでショートカットの女の子に見えるだけ。」とよく言われている、髪を切れば解決するかどうかは定かではないが。  だからこういうのは困る。 「藍市奏の部屋割り~殺戮の夜~」と板書された黒板だ。  この高校では入学してすぐに一泊二日のオリエンテーションがある。  義務教育を終え新しい環境に対応することや親睦を目的に行われると書いてあるが。大して問題のある生徒の入学がないこの高校ではその実ほとんど遊びだ。 「断固!かなで君は男子部屋で過ごすべきだ! いいかい? 彼も男だ。女子の部屋で泊って何かあったらどうするんだい?  もちろん、かなで君は男子部屋で泊まるんだろ?」  「いいえ! かなちゃんは私たち女子の部屋に泊らないといけないわ。男子の部屋になんて一時間でもいたら、かなちゃんはきっと妊娠してしまうもの!」  妊娠は絶対にしませんが…。それより《かなちゃん》ってのはやめてほしいなぁ。それ、僕の身近にもう一人いるから。  事の発端はオリエンテーションで僕が男子部屋に泊まるか、女子部屋に泊まるかを話し合っているのだが。 《まさか女子部屋に泊まるなんてことはないだろうけど》  僕は助け船を出してもらうべくやる気のない様子で傍観している担任にアイコンタクトを送った。  担任はそれに気がつき、かなでに返してくる《わかった。まかせろ》  ふぅ。これで安心だ。額の汗を拭うしぐさだけする。  担任は喋りだす。「あー、いいかお前達、藍市は物じゃないんだ、もっとよく藍市のことを考えろ。」 「あいつは男に襲われたら逃げるほどの腕力はないだろうし、女を襲うほどの度胸もない。」 「よって藍市の安全のため女子部屋で寝てもらう。」 《ティーチャー!?》  僕に出された助け船は実は泥の船だった。  担任は僕に気持ち悪いアイコンタクトを送ってくる。 《うまくやれよ!この、どすけべが》  はじめのアイコンタクトでなにが行き違ったのだろう。
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