約束

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――時が、流れていく。 捜査官達が負った体、そして心の傷を癒すように、淡々と、時には容赦なく流れていく。 監獄の完成後、SCHを始めとする能力者政府は、かなりの変貌を遂げることになるだろう。 闇に葬られた事件のことを話す者は誰もいない。 哀しい二人の犠牲者の名を、口する者も一人としていない。 それほどに深い傷を、彼らは乗り越えていくのだ。 ―― とある街の郊外、そこに広がる森林の中。 そこに、小さな木の小屋がある。 中にあるのは様々な実験設備。 そしてその場所にいるのは、眼鏡とマスクで顔を隠し、白衣を着ている長身の男。 “アスクレピオス”の名を持つ、アースと呼ばれる謎の男だ。 「危なかったな。こっそり見てたが、正直言ってヒヤヒヤしたよ」 死んだ魚のような目で会話を始めるアース。 その相手は、二人の男女だ。 「ま、私の助言が役に立ってくれて嬉しいよ。実際には、必ず思い出すように治療の時点で細工をしていたのだが・・・」 話を聞いている二人は、今は何も言葉を返さない。 少しの安堵と警戒を同時に抱き、小屋の中心に立ち尽している。 アースは彼らに視線を送らずに、何色かわからない液体が入った試験管を軽く振りながら話を続ける。 「“すり抜ける力を使って、吸い込まれる瞬間に地面下へ脱出”。タイミングもバッチリだから、まぁバレないだろうな」 「うまく、やれたでしょうか?」 不意に、一人が質問を投げかける。 するとアースは二人に視線を向け、 「大丈夫だろう。これからはヘンリーに従うより、私達の為に仕事をしろ。まぁ、SCHの動きはこれでだいぶ制限されるな」 うまく仕事をこなした二人に、新たな指令を下す。 「それにしてもいい演技だったよニーナ。ジョージも、おそらく完璧だ」 言われた二人は、不気味な笑みを浮かべて顔を見合わせた。
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