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――雨が降っている。
大粒の水滴は、止まることなく薄暗い空を覆う雲から、容赦なく降り注いでいる。
時折聴こえる雷鳴は遠くから、先にその姿だけを見せ、少し遅れて音を届ける。
そんな街に、一人の男が立っていた。
黒いスーツを身に纏い、同じく黒い髪を雨に濡らしている。
茶色の瞳と顔立ちから、それが日本人だということが理解できるだろう。
男は傘もささずに、ただ広い道路の中心で立ち尽していた。
雨は次第に激しさを増し、そのしぶきでアスファルトに覆われた道路に白い絨毯を敷き始めた。
だが、男は動かない。
うつ向き、拳を握ったまま、後悔の念に悩まされている。
その頬には、雨の滴かそれとも別の何かか。
その男自身にもわからないものが、ゆっくりと伝っていった。
彼の隣にあった優しい笑顔は、もうない。
それが正しい選択だったのか、過ちだったのかを判断できる者はいない。
ただ、確かなことがひとつある。
男はもう、一人だった。
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