1人が本棚に入れています
本棚に追加
大通りの向こうから、傷だらけの焦土色の体を躍らせながら、蹄を鳴らせて猛進してくる。
背にたてがみが走っていたが、巨体と首の長さが他の印象を裏切って得体の知れない獣としている。
ラーグノムだ。
ラーグノムはその性質故、群れる事はしない。
しかし、お互いぶつかり合いながら暴走する事は稀にある。
街の外で団子になり、そのままの勢いで街になだれ込んだのだろう。街の入り口の衛士達なども、この一軍に跳ね飛ばされたに違いない。
遅れてエルガーツも到着する。その後ろには細い足と走りにくい靴で懸命に追いついて来たファルセットが見える。
「多ッ!!」
ざっと5匹はいるだろうか。余りの数に反射的に声を上げたエルガーツだったが、ネトシルが突然駆け出した事には納得できた。
進んで人を襲うつもりはなさそうな手負いとはいえ、錯乱状態なのでこのままでは街の人間に被害が出るのは間違いない。
ネトシルとエルガーツは目を見合わせ微かに頷くと、ラーグノム達に向かって疾駆した。
二人の背に「やっちまえ!」「頼んだぞ!」と野次馬達の声援が飛ぶ。
その人々の間に、たおやかな手がすっと伸ばされた。
「失礼します。少々、道を開けて下さいな」
最初のコメントを投稿しよう!