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一撃で倒すのは無理だと悟り、ネトシルはまず先頭の一頭の脚をナイフで切りつける。
たまらず膝を屈して崩れ落ちる一頭と、それに巻き込まれ同じく地に倒れた一頭が、まず一群がら外れる。
次に切り込んだエルガーツは、ラーグノム自身の勢いを使い、すれ違いざまに脚の付け根に剣を突き立てた。
そのまま腹と後肢の腿までを大きく裂き、続いて迫る二頭目の頭を力任せにぶっ叩く。
傷を受けた一頭は派手に血を噴きながら地面に転がり、叩かれた方は衝撃で昏倒する。
刃を振るう二人の上に、影が落ちる。
見上げる二人の視界を覆ったのは、今手にかけたのと同じ巨体だった。
転がる四頭を飛び越えて、残る一頭が現れたのだ。
『しまった!』
二人の声が重なる。やはり二人では捌ききれなかった。
得物を握り直すも、もう既にそれぞれの間合いから外れている。
暴走しているラーグノムが、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す野次馬の背に突っ込んでいく。
馬にせよ牛にせよ、本気で蹴れば人間に大怪我をさせる事など容易い。あたり所が悪ければ、死に至る事すら有り得る。
ラーグノムの凶悪な蹄が人の背に届くその時、
「お止まりなさい」
シャリィィン――
場違いな程澄んだ二つの音が、修羅場に響き渡った。
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