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「助かった。ありがとう」
ラーグノムの喉から、赤黒い鉱石であるイヴィラを抜きとった後、街の者にラーグノムの骸の処分を指示していたあの声の主に、ネトシルは礼を言った。
「いいえ、礼には及びませんわ。当然の事をしたまでですから」
例の玻璃の声でそう返したのは、栄えた街のワイティックでさえも、中々見る事が出来ないような麗しい女性だった。
この国では珍しい夜色の髪は、水面に浮かぶ月のような光沢を宿し長く背に流れている。
その髪は一つに括り上げられている事により、ほっそりとしたうなじの白さが際立っていた。
象牙の肌はきめ細やかであり、鼻筋は通って切れ長でも細すぎない目元は涼やかだ。
上品に持ち上げられた唇は春の花の花弁にも似て、慈愛を感じさせる優しい微笑みを形作っていた。
ファルセットのような華やかな可憐さはないが、じっと見つめていたくなる魅力があった。
纏っているのは、緑のワンピースの上に刺繍で紋様が描かれた白い上衣を重ねた何かの儀式服のようなもので、仕立ても生地も目に見えて高級な物だった。
何よりの特徴は、身の丈に届く程も長い杖だった。
決して安くはないだろう細工が施されており、杖の頭にはそれぞれ大きさの違う金属の輪が七つ下がっていた。先程音を奏でたのはどうやらこの杖らしい。
女性は髪を括っていた紐を解いて、杖の輪に結びつけて留めた。
「お姉さま~っ!!」
今までどこにいたのか、人だかりからファルセットが跳ねるようにして現れ、女性に抱きついた。
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