潮風の街に集え

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 その晩は、エルガーツ一人が「酔いどれ海精」の店の方へ招かれた。 店は決して大きくはないが。片隅には楽団が控えられる程の大きさの舞台が設えられていた。 そこそこ有名な店らしく、日が沈み夜が更けるにつれ空いたテーブルはなくなった。 客は概ね筋骨隆々に赤銅色の肌の船乗り達で、大きな杯で酒を呷っては豪快な笑声を上げていた。 酒を注いでいるのは着飾った美人達で、皆一様にファルセットと同じ花形の付け黒子をつけていた。 この店の者達は店名にちなんでネリエスと呼ばれている。 ネリエスとは船乗り達に信じられている海の精霊であり、美しい姿で海を自由に泳ぎ回り、世にも素晴らしい声で歌うが、嫉妬深く、船に女が乗っていると転覆させてしまうという。
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