潮風の街に集え

3/47
前へ
/49ページ
次へ
賑やかな通りに入ろうとした丁度その時、 「ネトシル!? ネトシルじゃない!」 横合いから声がかかった。 見れば、果物籠を抱えた娘が、こちらに走り寄ってくる所だった。 一方、声をかけられたネトシルは怪訝そうな顔をしていた。 「やっだぁ、お久しぶり!」 やってきた娘は果物籠をごく自然な動作で隣のエルガーツに預けると、ネトシルにぎゅっと抱きついた。 娘は目を瞠るばかりの美人だった。 ゆるく巻いた金髪は、エルガーツの麦藁色とは違い、輝く蜜の如く艶めいている。 肌は白く、円らな瞳は澄んで青い。 縁取る睫毛は金の扇のようで、唇は果実にも似て瑞々しく、そこから零れる声は小鳥のさえずりを思い出させる。 そのように少女らしい様子でありながら、目蓋を薄青に塗り、肌を白く見せるための花形の付け黒子が頬に散っている。 髪飾りは透明な玉がいくつも嵌まった、金物細工の派手なものだ。 纏ったドレスは裾に布をたっぷりと使った贅沢なものである。 そうでありながら、背は大きくあき、胸のふくらみを強調するように、胸の下で革のリボンが結ばれていた。  娘はネトシルの頬に親愛のキスの雨を降らせていたが、ネトシルはそんな娘の肩を掴んで勢いよく引き剥がした。  何故か肩を掴んだ拳が震え、顔面は蒼白である。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加