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「お、お、お前……、まさか、ファリ――」
「だ・め」
そのわなわなとしているネトシルの唇に、ほっそりとした指がするりと押し当てられる。
びくりとして硬直し、ネトシルは口を閉ざした。
「昔の話はやめて? そういうのって野暮だわ。今はファルセットって名前なの♥」
上目遣いにネトシルを見て、いやいやと身をくねらせる。そういう仕草の一つ一つを見る度に、ネトシルは具合が悪くなっていった。
「ファルセット……か……」
歯の間から漏らすように呟く。白目でも剥きかねない勢いだ。
「そ♥ ねぇネトシル、あぁ昔みたいにネティって呼んでいい? いいよね? やったぁ! ねぇネティ、これからワイティックにしばらくいるの? いてくれるわよね? そうでしょ? じゃあ、うちに来ない? 勿論安くしとくからさぁ! まだ泊まる所決まってないでしょ、そうよね? 決まりね、さぁこっちよ、二名様ご案内~♪」
呆然自失状態のネトシルが返事をしないのを良い事に、ファルセットと名乗った娘はネトシルをずるずると引きずるように引っ張って歩き始めた。
エルガーツはしばらくぽーっと見送ってから、慌てて追いついてファルセットに声をかける。
「ちょ、ちょっと君?」
「なぁに?」
くるりと振り向くその笑顔が余りに可憐で、「オレも手をつないでもらっていいですか」とか寝ぼけた事を口走りそうになって急いで飲み込む。
「あ、あの、ネトシルさんとどういったお知り合いデスカ……?」
けれどドギマギして結局片言になった。
それに彼女はにっこりと笑ってとびきりコケティッシュにウィンクした。
「あたしは、ネティのだぁ~いじなオ・ト・モ・ダ・チ♥」
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