潮風の街に集え

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エルガーツは何度もこの街に来た事があった。仕事でこの近辺を通った事もあった。 しかし、この通りを歩くのは、初めてだった。 「とぉちゃーく♪」 一つのドアの前で、彼女は立ち止った。 ドアは造花と色石で華やかに飾られ、そこにはおしゃれな字体で「酔いどれ海精(ネリエス)」と書かれていた。 周囲を見れば、「波の花酒場」だの「赤亀亭」だの「珊瑚色の誘惑」だのといった店が軒を連ねている。 少なくとも、女に連れられて、女を連れて、真昼間から歩くような通りではなかった。  いや、ある意味『女に連れられて』だけはまっとうかもしれないが、そこだけまっとうでもエルガーツの名誉とかにとっては何ら嬉しくなかった。 「よそ見しちゃだぁめ。さ、入って入って!」  戸惑いまくるエルガーツと茫然自失のネトシルに構わず、ファルセットはドアを開けて中へ入って行った。 引きずられたネトシルが、次になるべくおろおろとすまいとしながら目が泳いでいるエルガーツが続く。
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