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「こら、春美! 肉ばかり食べない!」
「いいじゃ~ん、どうせお姉ちゃんは、ごくん、そのぽんぽこりんのお腹をへこませるとか言って、ごくん、食べないんだし」
「ち、違っ……。あっ、口に物含んで話さない!」
「ごめん栞ちゃん、そこのポン酢取ってくれる?」
「あ、これですか?はい、どうぞ」
「せんきゅ」
そんな訳で、俺たちは誘拐犯とその被害者という奇妙な構図で鍋をつついていた。
「悪いな、昼飯抜いてて」
「いや、そんなことはない。そもそも人質生活でここまで自由に出来るとは思ってなかったし」
「まぁ俺達の目的は金であって人質に危害を加える訳ではないしな」
これはあくまで俺の思想だ。ポリシーだ。
ねずみ小僧みたいな感じ。……ちょっと違うか。
「ところでさ~」
目当ての肉がなくなって、つみれを投入しつつ春美が尋ねる。
「なんで誘拐犯さんは誘拐なんてしたの?」
「あ、それ私も気になります。全然悪い人じゃなさそうですし」
まぁそんな質問はくるだろうな、とそれなりに予測してたので箸を止めて答える。
「金が必要だったから」
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