Episode,1 素顔の貴方、あの記憶。

2/30
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
やだ、どうしよう……っ。 人々が行き交う駅のホーム、人波に押し流されたわたしは、体をよろつかせていた。 小さな体がコンプレックスで、人込みには埋もれてしまうから、なるべく避けていたのに……わたしは今、見事に埋もれてしまっている。 「ちょっ……那智[ナチ]、大丈夫ー!?」 さっきまで隣にいた友達は、人の流れに乗ってどんどん先に行ってしまう。 だからわたしはついつい焦ってしまって……友達に追い付こうと、人と人との間を無理矢理割って入った。 それが、間違いだった。 「待って千歳[チトセ]っ、行かな……っきゃ!?」 わたしみたいな小さい体で、人込みを割って入るなんてことはやっぱり無謀だった。 一瞬で、わたしは端の方へ押し出されてしまう。 おまけにそれと同時に、誰かの足に自分の足を引っ掛かけてしまい、派手に転んでしまった。 「ちょっとあんたなにすっ転んでんだよ、邪魔なんだけど!」 「っ、すみません……っ」 転んでまだ立てないでいたわたしに、周りから批難の声。 邪魔したくてこうしているわけじゃないのに、世の中はなんて理不尽なんだろう……。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!