彼の心

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「霧かぁ。別に昨日は雨も何もなかったのにね」 クロワッサンをかじりながら、ネスは不思議そうに呟いた。 「もう事故なんかもいくつか起こってるみたいよ。ネスもポーラちゃんも、気をつけなさいね」 「わかってるよ。大丈夫」 「はい、ありがとう。おば様」 ネスとポーラが心配するママに対し、各々の言葉を返すと、ママは満足そうに頷き、次なる家事を片付けに向かった。 「ねぇ、変じゃない?」 ママには聞こえないように、ポーラは小さな声で囁いた。 「霧でしょ? 確かに変だけど、もうギーグもスターマンもいないし、大丈夫じゃない? それに、最近は何かと異常気象がどうのってうるさいし」 心配そうなポーラとは裏腹に、ネスは然して気にしていないようだ。 クロワッサンを食べ終え、すっかりぬるくなったコーヒーを飲むと、それを片付けにキッチンへ向かった。 いけない。ワクワクしてはいけない。 僕は、受験生なんだ。進路も決めなきゃならない。もう、こんなことに時間を裂いちゃいけない。 ネスは後から後からやって来る武者震いを押さえながら、食器を片付けた。 ダイニングへ戻ると、ポーラはテレビに流れるニュースを真剣な眼差しで見ていた。 これは、本気で心配しているからこその眼差し。 ネスのように、好奇心から来るものではない。 もちろん心配だ。何かおかしい。直感がそう伝えている。 だが、駄目なんだ。 動いちゃいけないんだ。 明日だって予定は沢山ある。 希望用紙を埋めて、膨大な宿題を終わらせて、それから……。 ネスは好奇心という好奇心を封じ込めるために、ニュースから目を離したのだった。
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