彼の心

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そのトレーシーもまた、自分の道へ進もうとしている。 二年前、ネスの旅をサポートするという目的でエスカルゴ運送でアルバイトを始めたのだが。 その働きがあまりにも目を見張るもので、社員にならないかという声が掛かっていた。 しかし、トレーシーはまだ13歳の少女。当然、社員がどうという話には実感が持てず、ハッキリしないまま今になる。 僕だけ取り残されたな。と、ネスは思った。 ベッドに仰向けになって倒れ、大きな溜め息をついた。 一年近くに及んだ旅のせいで、帰ってきた頃には勝手に中学生になっていた。 小学校での思い出は、ネスのいない所で綺麗に納められ、随分寂しい気持ちになったのを覚えている。 更には、勉強が問題になった。元々できる方ではなかったが、それでも圧倒的に遅れたカリキュラムは、ネスにとって致命的だった。 毎日のように補修を受け、大量の宿題をこなして、また学校へ。 そんな二年間の中で、進路なんて決められる筈がない。 こんなものなのか? 僕が、命を懸けて救い上げた世界の日常は、こんなに中身のないものだったのだろうか。 分からなかった。何のために救ったのかも。 今のネスには、あの頃のネスは存在していなかった。 「くそっ! くそっ! 何やってんだよ! 何がしたいんだよ! 僕がしたことって何なんだよ!」 悲痛だった。部屋中にも、部屋の外にも、一階のママにも聞こえるような声で、ネスは想いの全てを吐き出した。 誰にも讃えられる筈がないことは分かってる。でも、何が特別なんじゃないかって、心のどこかで思ってた。 でも、しかし。 現実のネスは、世界の大多数と変わらない、極普通の中学生でしかなかった。
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