彼の心

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「例えばさ……ほら、野球。ネス、野球好きなんじゃなかった?」 ポーラは両手を合わせ、パッと閃いたように言った。 「野球? メジャーリーガーにでもなれっていうの? 確かに野球は好きだけど、そこまでの実力も、ましてやなろうって気持ちも無いからなぁ……。 そんなんでメジャーリーガーになれたら、世界中のマイナーリーガーは苦労しないよ」 ヒラヒラと手を振って言うネス。 ポーラがナイスな閃きと思って口にした野球説は、脆くも崩れ去った。 「やっぱり、そう簡単に見つかるものじゃないかぁ」 ネスは両手を頬について、またまた萎れたように元気を無くした。 結局のところ、ネスの言う通りなのだろう。 他人がいくら道を指し示した所で、結局決めるのは本人だ。 ましてや今のネスの状態では、どんな提案をしても、きっと不発に終わってしまうことだろう。 と、そんな時、朝食のクロワッサンとコーヒーを持ったママが食卓にやって来た。 「お待たせ。さ、召し上がれ」 バスケットの中にどっちゃりんこと積み上げられたクロワッサンに、ネスは苦笑いを浮かべながらも、頂くことにした。 「そういえばポーラちゃん。今朝は大丈夫だったの?」 「今朝?」 ママから唐突に出された質問に、ポーラは首を傾げて聞き返してしまう。 ママは小さく頷いてから、具体的な内容を話し出した。 「霧よ。今朝、凄くなかった?」 すると、ポーラも思い出したように返す。 「あ、そういえば」 「霧?」 ネスはクロワッサンを口に詰めたまま言う。 ポーラはそれに頷いて、言った。 「えぇ、今朝、ここに来るとき凄い霧だったの。それこそ、ミルクを溢したみたいに濃い霧。 すぐ目先も見えなかったわ」
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