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原田左之助は元来それほど寝起きの良いほうではない。 それがどういうわけだか今日は変な寒気を感じて目が覚めてしまった。 二度寝にしけこもうと目をつむるが、眠気は一向に襲ってこない。空も白み始めていることだし、ここは諦めて起きるしかないと悟った原田はのっそりとその巨体を起き上がらせた。 布団から出た手足が肌寒く感じるような季節ではない。梅雨に入るか入らまいかという初夏の事だ。 原田はぼうっとする寝起きの頭でおぼつかない考え事をした。 山南粛清から、 二年が経っていた。 あの後屯所は予定通り西本願寺へと移転。参謀伊東甲子太郎という武器を手に入れた局長近藤勇は政治に凝るようになり今や大名か公家でもあるように様々交友関係を結んでは国の未来を論じている。副長土方歳三は相変わらず隊の事にしか興味がない。沖田総司は次第に身体を壊し、しばしば鍛練を休むようになり、永倉新八がその穴を埋める形で激務に追われている。斉藤一、山崎丞両人は相変わらず己の任務を忠実にこなしている。 藤堂平助は… そこまで考えて原田は布団から足を引っこ抜いた。 藤堂はあれから二年間、まるで形骸だった。 言われた任務をただ淡々とこなし、そうでないときは一人でぼんやりどこかを見つめながら物思いにふけっている風だった。伊東を賛美するような事を口では言いながらも隊内に着実に増えつつある「伊東信者」に加わるわけでもなく、本当に宙ぶらりんの藤堂は、宙ぶらりんのまま毎日をただ消費しているようだった。 原田ははじけるように笑っていた藤堂の顔を思い出そうとして、失敗した。 のそりと立ち上がって布団を畳み、端に寄せる。昔使っていた煎餅布団が信じられないくらい柔らかい今の布団。隊士と共に賄い方も増えた今や、布団を放っておいても勝手に賄い方が片しておいてくれる。 新撰組も随分と待遇が良くなったものだ。 原田は握り拳が入りそうなくらい大きなあくびをひとつすると、採光のために自室と廊下とを仕切る障子を開いた。 「ん?」 ふと下を見る。 「なんじゃこりゃ」 古風な印象の日本人形が一体、原田の自室の正面にちょこんと立っていた。
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