第一章『傘』

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さっきとはまた 別の男が思いっきり 腕を振り上げた。 あ、殴られる… そう思って 目をぎゅっと瞑った。 でも、降りてきたのは あいつらの 腕なんかじゃなくて… 傘だった。 「えっ」 素直に驚いて 変な声が出た。 だって、 てっきり殴られると 思っていたから 目の前に傘があるんだもん。 しかもさっきまで 俺をいじめていた クラスメイトは いなくなっていて、 かわりにいたのは…。 「お前だよな、 森本龍太郎って」 雨の日に俺の傘を貸した あの、スラッとした 茶髪の人だった。 「うっ、あっ、 はっ…はい!」 うわうわうわ! 一気に不思議な出来事が 起こりすぎてる! なんで茶髪の人が ここにいるの? なんで俺の名前 知ってるの? なんでクラスメイト いなくなってるの? 「傘に名前は 書いてあったんだけど それでクラスまでは わからなくて… 返すの遅れた、ごめん」 あ、疑問一つ解決。 「いや、あ、 別に…使わなかったし」 どうしよう、どうしよう。 あの、 かっこいい茶髪の人が 目の前にいる。 やっぱちゃんと見ると すっごくかっこいい。 前に会った時と同じ 髪型も バッチリ決まってる… 制服もスラッとしてるから 着こなせてる。 目が離せない。 心臓が どうにかなりそうだ…。 全身が、なんだか 痺れてくる…。
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