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  「ハイボール、おかわり。  もっとキツめでください」  苦笑いのマスターが、わたしからグラスを受け取って。  新しい、ピカピカに拭かれたグラスを取り出して。  黙って、氷を カラン と入れる。  とぽとぽっと注がれる、濃い琥珀色の山崎10年。  開けたてのソーダの、白い泡。 「はい、お待たせ」  差し出された、3杯目のハイボールに。  ぐっと口唇を噛んで、挑む。  涙は出ない。  人前でぼろぼろ涙をこぼすくらいなら、部屋に閉じこもって泣く方がいい。  わたしは、そんな、みっともない人間じゃない。  そう強がって。  泣かない代わりに、これでもか、ってくらい。  アルコールを流し込んでやる、覚悟。  ハイボールの前に、生ビールと梅酒、それから、名前も知らない、甘いカクテルも飲んだ。  でも、まだ、前後不覚になるほどには、酔っ払えない。  本音を言えば。  ぼろぼろに酔っ払って。  理性とか、吹っ飛ばして。  情けなく、大泣き……できたらいいな、と思ってた。  でも。  残念ながら、飲んでも飲んでも、わたしの理性は飛んでいかなかった。  こうなったら。  とことん、飲むしかない。  半分くらい、一気に飲んで。  一息ついて、また、一気にいく。  活きのいい炭酸が、喉の奥をちくちく刺激した。  あぁ。美味しい。  悲しいくらい、美味しい。 「……今日はまた、よく飲むねぇ」  マスターが、そっと。  小鉢を出してくれた。  菜の花のお浸し。  何も食べずに飲んでると、いつも、こうやって気遣ってくれる。  そんな優しさに、ほろっといくか……と思ったけど。  やっぱり、いかなかった。  わたしの涙腺は、意外と強情だ。  
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