彼の始まり

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 空が好きだ 夜の漆黒に映える星や月 暮れてゆく夕日と真っ赤な空 でも特に好きなのは 真昼の真っ青な空。 古い記憶を辿ると 文字も読めないガキの頃、大人でも躊躇するほどの高価な空の写真集を強請(ネダ)ったり もっともっと古い‥ モノクロームな景色に、見上げれば真っ青な空。 ボーイソプラノの笑い声でクルクルと回り出すと、パッと景色に色が付き 視界の端で 白地に椰子(ヤシ)のような葉と、赤い大柄な花のワンピースのスカート部分が揺れている。 あれは多分‥ とにかく そんな小さな頃から、俺は空に憧れていた。 比較的早い時期から、俺は飛行機乗りに成ろうと決めていた。 父が社長業をやっていて、俺はその父の跡継ぎにと、子供の頃から会社の様子を見せられてきた。 それは大変な苦痛だった。 物事がよく分からないガキが、大人しく会議の様子を見学したり ガキだと思って俺の前で、父の陰口を叩く-優秀な部下- あいつらの態度の変わり身の鮮やかさと、それに全く気付かない父を見て 俺はまず、大人に成りたくないと思った。 そして 将来自分にも、こんな奴らが就くと思うと最悪だと。 俺が一番最初に人間を嫌った時期だった。こんな会社より、真っ青で清々しい空を飛ぶ仕事に就きたいと思った。 *
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