彼のアクション

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セスナが体当たりした痕が有るガレージのシャッター。 それを開けると、ムッとした空気と過去の匂いがした。 燃料タンクと飲料水のタンク。 工具にガーデニングのものと思わしき道具類。 女物の日よけの布が付いた帽子と、幼い子供の砂場道具一式と劣化したビニールの浮き輪。 ガーデンセットの華奢な白のテーブルと椅子とパラソル。 今にも、幸せそうな家族が、リゾートを満喫するため、道具を取りに来そうな中身だった。 その幸せそうな家族は、数年前の俺の家族で‥ 不覚にも涙が滲んでしまった。 少々埃っぽくて、セスナを収めてもシャッターは開け放す。 二階の階段が有ることに気付き、何となく登ってみた。 「これは‥」 父の、母を愛する想いがここには詰まっていて、一生父には敵わないと思った。 幾枚もの母の絵画。 幾枚もの母の写真。 母の遺品と思わしき衣装箱や調度品。 その中で、机の上の写真立てに目を奪われた。 「‥母さんだ」 幼い俺を抱いた母。 朧げな記憶とリンクする、白に大柄な花のワンピース。 彼女はどの写真や絵画より、目が優しくて最高に幸せだと言っていた。 俺にとっての母はこれだ。 母をよく覚えてない俺は、それはとても眩しいものに見えた。 セスナに詰め込んだ思い出たちは此処へ運ぼう。 掃除やスペースの確保をしなければならないけど、俺には膨大な時間が有った。 父は数年隠れてろと言っていたが、俺が朽ちるのはこの場所だと直感した。 「また来るね」 写真の母にそう挨拶して、階段を下りた。 「さて 住まいはどんな塩梅(アンバイ)だろか。 ‥参ったな。さっきから独り言ばかりだ。 ま。一人きりなんだから気にせず呟いてやるか」 島はざっと見、外周一時間半程度の大きさ。 足場が悪きゃ、もっと掛かるか。 ワクワクと子供のように、はしゃいで探検したい気分でも有ったが、長時間の飛行で疲れてもいる。 ここは寝床の確保が先決だなと、居住の建物に目を向けた。 *
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