彼のアクション

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ポート隣のホテルのレストランで、久しぶりにまともな食事をした。 カラフルな魚やフルーツをふんだんに使っているが、流石はフランス領だけあって、美しい盛り付けと味も美味かった。 従業員は現地人が多いが、プロ意識が高いのか誰もが陽気で愛想が良かった。 それをつくづく感じたのは、ホテルを出てしばらく、道を歩いてて、ねっとりした視線を感じたから。 そちらを見れば棒立ちになった男が、俺と目が合っても尚、睨むような視線を送っていた。 視線を合わせたまま、ゆっくりと男の横を通り過ぎ、正面に向き直る。 「何だって言うんだ‥」 恐らくは彼に解からない言葉で呟いた。 思った以上に、ここは閉鎖的なようだ。 背中にまだ視線を感じた 空は真っ青 樹木や草は濃い緑 赤や黄色など原色の花 パレオの絵は油絵みたいで芸術的で、色はやはり原色が多い 郵便ポストの上にフランスパンの細長い配達受け。 これはどちらも赤い。 白い砂と家の壁は眩しいくらいに景色を引き立てて、白い色がこんなに美しいものなのかと関心する。 そんな美しいものだらけの中で、渦を巻く黒い感情。 ああ、でも気持ちは分からなでもない。 彼らは恐れているんだ。 外来者にこの美しさを穢されてしまうことを。 ハワイの火山の烈しい女神は、元々はこの土地の女神だった。 だが、その女神は姉の夫を寝取ってしまい、怒った姉と母の女神は彼女を絶縁してけして寄せ付けない。 そんな神話が有る位、彼らの根っこは情熱的なのかもしれない。 それはまあ、素晴らしいことだとは思う。 思うけど、向けられた方は堪ったもんじゃない。 島が美しければ美しい程、渦巻く黒い感情は恐ろしく突き刺さる。 「お願いだから今は止めてくれ‥」 軽く人間不信な俺を、もっと深いところまで突き落とさなくてもいいじゃないか。 *
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