15人が本棚に入れています
本棚に追加
空を飛ぶ仕事をしたいと決めてから、
じゃあ、職種は?と、具体的に考えたとき
航空便の配達員や、旅客機のパイロットではダメだと思った。
あれは
空と道路と変わらない。
決められた空路を、決められた時刻に飛ばなければならない。
せっかくの空なのに
自由がないのはごめんだ。
そして見た空軍の戦闘機による曲乗り。
「これだ!」と、俺は興奮した。
俺はハイスクールを卒業する頃、父に極秘で軍の士官学校へ手続きをした。
当時は世界が緊迫していて、いつ戦争になっても可笑しくなくて
だから入ってしまえばこっちのもの。
結局は父の財力でも国は動かせずに、俺は無事に空軍に入隊することとなった。
……それが今回のことに遠回しで影響したなんて、悔やんでも悔やみきれない。
切羽詰まった父から、俺の所に連絡が入ったのは昨日のこと。
士官学校出で階級がある程度上の俺は、嘘の理由で長期休暇を簡単に貰った。
‥そのまま退役になるかもしれない。
今は
ボンネットが長い、幌(ホロ)の付いた車を走らせている。
上等の鉄は戦闘機より重厚で、体当たりでも喰らわせたらイイ兵器にでもなりそうだ。
澱んだ川沿いを走り、高級住宅街へと入る。
その一番奥が俺の自宅だ。
街の図書館よりずっと立派な、柵に囲まれた三階建ての洋館。
石造りが冷たさを感じさせ、そこで生まれ育ったのが幻のように、俺を拒絶して見えた。
門を通ってしばらく車を走らせ、車庫に収納すると
ここから館の前まで送ってくれる人間が、青い顔して俺を待っていた。
震えているような使用人は、泣きながら俺に深く礼をして
館の前まで運んでくれた。
「これが最後の仕事に御座います」
彼がこの後、どうしたかは一生の謎となった。
*
最初のコメントを投稿しよう!