彼の始まり

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空を飛ぶ仕事をしたいと決めてから、 じゃあ、職種は?と、具体的に考えたとき 航空便の配達員や、旅客機のパイロットではダメだと思った。 あれは 空と道路と変わらない。 決められた空路を、決められた時刻に飛ばなければならない。 せっかくの空なのに 自由がないのはごめんだ。 そして見た空軍の戦闘機による曲乗り。 「これだ!」と、俺は興奮した。 俺はハイスクールを卒業する頃、父に極秘で軍の士官学校へ手続きをした。 当時は世界が緊迫していて、いつ戦争になっても可笑しくなくて だから入ってしまえばこっちのもの。 結局は父の財力でも国は動かせずに、俺は無事に空軍に入隊することとなった。 ……それが今回のことに遠回しで影響したなんて、悔やんでも悔やみきれない。 切羽詰まった父から、俺の所に連絡が入ったのは昨日のこと。 士官学校出で階級がある程度上の俺は、嘘の理由で長期休暇を簡単に貰った。 ‥そのまま退役になるかもしれない。 今は ボンネットが長い、幌(ホロ)の付いた車を走らせている。 上等の鉄は戦闘機より重厚で、体当たりでも喰らわせたらイイ兵器にでもなりそうだ。 澱んだ川沿いを走り、高級住宅街へと入る。 その一番奥が俺の自宅だ。 街の図書館よりずっと立派な、柵に囲まれた三階建ての洋館。 石造りが冷たさを感じさせ、そこで生まれ育ったのが幻のように、俺を拒絶して見えた。 門を通ってしばらく車を走らせ、車庫に収納すると ここから館の前まで送ってくれる人間が、青い顔して俺を待っていた。 震えているような使用人は、泣きながら俺に深く礼をして 館の前まで運んでくれた。 「これが最後の仕事に御座います」 彼がこの後、どうしたかは一生の謎となった。 *
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