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父は俺が入室したのも気付かずに、机の引出しを見詰めて考え事に没頭している様子だった。
社長業をやっている父は、常に考え事をしていたので
この異様とも云える状態でも、俺は別段、気にする事もなかった。
後から思えば、この時俺が問い詰めていれば父は…
「あぁ終わったか。
お前が飛行機を運転出来て良かったのか悪かったのか…
お前には何年か、ほとぼりが冷めるまで隠れていて欲しいんだ。
私たちの大切な思い出を、何処の馬の骨とも知れぬ奴らに勝手にされたくはない。
隠れる場所は…お前は覚えてないだろうな」
父は引出しから、権利書のような物と一枚の地図を出した。
セピア色に染まったその紙に、父は愛しむかのような眼差しを送った。
「あそこはアレが初めて自ら欲した島でな。
アレの名義のままだから、奴らに見付かる事もないし、屑のような島だ。
どうこうするにも金が掛かって、手出ししない方が懸命だと判断してくれるだろう…
地図は古い。
空路図を新しくした方がいい。
あぁ、お前の方がその辺はよく判るか
手入れは極々親しい人間に頼んだから、人が住める状況だろう
そいつも私と運命を共にするから、秘密は漏れる事もない」
書類を渡す気配で父に近付けば、引出しから銀に光る物が見えた気がした。
そこに注意を向けようとすると、父はもうひとつ、冊子を出して俺に差し出した。
それは俺名義の多額の通帳だった。
やっぱり、年季が入り古ぼけていて、相当前から俺の為に…
「社長。いえ、父さん
これは一体…」
「お前は知らなくていい
嫌でも後から知ることになる。
ただ、ひとつ言わせて貰えば、お前が私の隣に就いていれば‥
ただ、私は無実だとお前だけは信じてくれ
私は嵌められたのだ。
この思い出の館も、まもなく没収されるだろう。
あいつらは‥いや、お前は知らない方が‥」
父の無念が伝わってきた。
だから
何が遭ったか知らないが、この今の父を信じようと思った。
「最期にお前に会えて、私は運が良かった。と思うことにしよう。
私たちの思い出を守ってくれ。
本当に時間がない。
取り敢えずここを離れなさい
書類で行き先が分かると思う。
セスナで早く!」
俺は父が言った最期を、最後だと勘違いして慌しくこの地を発った。
父は、銀の翼が見えなくなるまで俺のセスナを見送ってから席に着き
引出しから出したそれで‥
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