彼の始まり

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父の突然の命令に、俺は取り敢えず祖国を出た。 いくつかの国を渡り、補給と情報収集に家の名で懇意にしていた、小型旅客機専用ポートのオーナーの世話になった。 ‥それが間違いだった。 これから俺が行く島の位置や、言語圏などを調べ、俺の軍の給料から金をパシフィックフランに変えた。 俺の島は、南太平洋のフレンチポリネシア諸島寄りだと知ったからだ。 緯度経度でその場所を割り出し、おおよその空路を練る。 それと気候に合わせて、必要な物を購入した。 そのとき買った新聞で、父の死と事の全容を知った。 父の独断での汚職と、そこから生じた多額の債務。 会社は、明るみに出る前に父を即刻辞任させた。 そして 債務は父の個人財産で返済。 それを悲観した父が、短銃で自らの頭を撃ち貫いた。と。 債務回収業者が事切れた父を発見し、あの館の価値が下がったのと、金目の物が消えて債務が回収しきれずに、会社にも回るとも有った。 無傷で会社を手に入れようとした奴らは、父の思わぬしっぺ返しに今頃大騒ぎしているだろう。 父と共に自殺したとされる名も知らぬ人。 恐らく、これから俺が行く島の管理をした人間だろう。 俺は新役員の名前を見て、父を嵌めあの会社の乗っ取った人物が直ぐに判った。 幼い頃の俺の目の前で、鮮やかな二面性を披露してくれた奴らだ。 父が頼れる人間は、会社には居なくて だから あの時零したのは、父の本心だったのか‥ もし 俺が会社を継ぐ気でいたら、こんなことにはならなかったろう。 今更、後悔しても父は帰ってこない。 異国の言葉が拙くて、上手いこと宿が取れなかった。 仕方なく、俺はセスナで休もうと来た道を戻った。    *
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