彼の始まり

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ポートに入り、俺のセスナから話し声がした。 父のことで、力を失っていた俺は、その場所へと音も無く進んだ。 次第に話し声の言ってる言葉がはっきりとしてきた。 なにやら夢中のようで、俺には全く気付かない。 あぁ、軍で鍛えた歩き方をしてたからか‥ そんなどうでもいいことを考えながら、俺はセスナに近付いた。 「‥絡は付いた。 明日には来てくれるそうだ 報酬も交渉したぜ」 「なら、早くこの中の物を頂かなくてはな。 しかし‥ 特注で特殊な鍵を付けるとは、あちらさんも用心深い。 結局、俺らも信用が無かったと。 悪人はアタマも違うな」 下品な笑い声と、鍵を壊そうとしているんだろう。 金属音が鳴り響いた。 「父よりお前たちの方が、余程の悪人だろう? しかも父は濡れ衣を被っただけだ。 俺をただの坊ちゃんだと甘く見たな? 軍では階級が上で、国は違っても多少警察も自由に動かせる。 こないだの何処ぞの国の内乱。 あそこに行って、制裁を加えた一員だ。 試してみるか?」 軍で鍛えた体力と、父から習った世渡り術のハッタリ。 これで引いてくれと祈りながら、外套から拳銃を出す仕種をした。 外套の下に覗く上着に着けた勲章が目に入ったんだろう。 奴らの顔が青くなった。 俺はゆっくりと笑う。 威嚇の笑みだ。 奴らはガキみたいに声を上げて逃げていった。 ホッとしたのもつかの間 セスナの燃料を確かめて、直ぐ様空に舞った。 次々に起こった不幸に、俺は人間不信になっていた。 夜空と下界のネオンが美しく輝いていた。   *
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