彼の始まり

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個人経営のエアポートからエアポートへ移動するように、目的地に向けて空を翔(カケ)る。 ヘリポートなら数はあるが、セスナ級の飛行機を受け入れてくれる場所は、まだまだ少ない。 それでも 広く新天地とされた大陸は、陸より空のほうが何かと便利で、 少し探せば 料金を吹っ掛けられるという多少の挨拶が受入れ難いけど、補給と休息は得られた。 退役も済ませ、膨大な時間と少しの金が有った俺は、のらりくらりと青い空を堪能しながら時間を掛けて、観光半分で目的地に向かった。 辞書を片手に新聞を読んだが、この地までは父のことは報道されていないことを知り安堵した。 空が好きで、それが高じて整備士顔負け‥果ては開発も出来るだろうウデを持った俺は、セスナの改良にも努めた。 そうやって南アメリカを離れ イースター島や、フレンチポリネシアの諸島を過ぎ、珊瑚の砂の盛り上がりの島とは言い難い少量の陸の大群が見えてきて その出来損ないの陸が守るように、やっと島と呼べる陸地が見えてきた。 三日月のカタチに、一番括(クビ)れた中央部分から不自然に人工的に、滑走路と見られる線が延びている。  あそこだ。 そう思いながら離陸の為に低空飛行すると、白や緑の中に黒く光るものが有った。 それは住まいの屋根に取り付けられた光発電のシステムだった。 なるほど こんな場所では、遥か離れたリゾート地から電気を引くわけにはいかないから、最新鋭の技術を取り入れたのか。 月の背の部分には、風力発電のカワイイ風車があった。 そちらはどうやら失敗に終わったようだ。 滑走路としては短い、珊瑚を固めた道を滑り、家の脇ギリギリで止まった。 あと数メートルでガレージが有り、シャッターにぶつけた痕が有って苦笑した。 ここはかなり上級者向けの滑走路らしい。 操縦桿を離し、見上げると窓越しの真っ青な空。 この目に染みるような濃いBlue に見覚えがある。 古い古い記憶 一番古い朧げな‥ 小さな小さな俺がボーイソプラノで笑いながらクルクルと回る。 まるで夢のような記憶。 そうだ 母さんがまだ生きていた頃、家族旅行で滞在した島が此処だったんだ。 俺は空が好きになった 原点の地に帰ってきたんだ。 *
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